憲法って、面白っ!
2010年6月27日 リブ・イン・ピース@カフェ

(I)憲法改正が手続き的には可能に
・「憲法改正手続法(日本国憲法の改正手続きに関する法律)」
 2007年5月14日成立、2010年5月18日施行
・多くの問題点(公務員・教育者に対する運動規制、投票までの期間は60~180日、14日前から有料意見広告の禁止、公費による意見広告利用は「政党等」であって一般市民に開かれていない、最低投票数の規定がない、等)
・関連法案(公職選挙法、民法、公務員法)、付帯決議(最低投票率、広告規制)は未検討
・改憲論者鳩山由紀夫は失脚したが、民主・自民大連立の可能性あり


(II)憲法総論
(1)憲法(constitution)は何のために作られたか?
・マグナカルタ(英国13世紀)から現代までの憲法に共通する目的

(2)憲法を守る義務は誰にあるか?

(3)日本国憲法の究極目的は?

(4)「公共の福祉」とは?
・自民党の改憲草案では「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に

(5)基本的人権について「権利を行使するならまず義務を果たせ」といえる?

(6)「悪法も法なり」は正しいか?
・「法の支配」と「法治主義」の違い

(7)日本国憲法は「押しつけ憲法」か?
・誰が誰に何を押しつけている?

(8)憲法の人権保障は外国人にも及ぶのか?
・「マクリーン事件」(最高裁1978年10月4日)


(III)憲法9条
(1)日米安保条約は9条違反か?
・砂川事件(東京地裁1959年3月30日)
・砂川事件(最高裁1959年12月16日)

(2)自衛隊は9条違反か?
・長沼事件(札幌地裁1973年9月7日)
・長沼事件(最高裁1982年9月9日)

(3)判例・裁判例における平和的生存権
・長沼事件(札幌地裁1973年)
・長沼事件(最高裁1982年)
・イラク自衛隊派兵差し止め訴訟(名古屋高裁2008年4月17日)


(IV)憲法25条
(1)「健康で文化的な最低限度の生活」とは?
(2)憲法25条は「プログラム規定」?

・朝日訴訟(東京地裁)(1960年10月19日)
・朝日訴訟(最高裁)(1967年5月24日)

・堀木訴訟(東京地裁)(1972年9月20日)
・堀木訴訟(最高裁)(1982年7月7日)


(V)「戦争放棄、戦力・交戦権の否認」が憲法に盛り込まれた理由――憲法9条の光と影


(VI)なぜ私たちは9+25なのか
  ・生存権が保証されないと平和主義は…?


資料-[1]
マグナカルタ(大憲章)
1215年、イングランドのジョン王の権力を制限するために貴族たちが王に認めさせた。

日本国憲法(抜粋)

 〔戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認〕
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
[2] 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 〔基本的人権〕
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

 〔自由及び権利の保持義務と公共福祉性〕
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

 〔個人の尊重と公共の福祉〕
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 〔平等原則、貴族制度の否認及び栄典の限界〕
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
[2] 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
[3] 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

〔居住、移転、職業選択、外国移住及び国籍離脱の自由〕
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
[2] 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

 〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
[2] 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 〔財産権〕
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
[2] 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
[3] 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 〔生命及び自由の保障と科刑の制約〕
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

 〔最高裁判所の法令審査権〕
第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

 〔憲法改正の発議、国民投票及び公布〕
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
[2] 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

 〔基本的人権の由来特質〕
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
[2] 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

 〔憲法尊重擁護の義務〕
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
資料-[2]
☆マクリーン事件
*マクリーンさんが1年間の在留期間中に政治活動をしたことを理由に在留期間の延長拒否。
一審:拒否は違法、二審:拒否は裁量の範囲、最高裁:拒否は裁量の範囲
*最高裁判決
「基本的人権の保障は、(中略1)わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、(中略2)その保証が及ぶものと解するのが相当である。」
中略1…「権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、」
中略2…「わが国の政治的意志決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、」

☆砂川事件
*在日米軍基地拡張に抗議した住民が基地内に侵入。安保条約刑事特別法違反か、軽犯罪法違反か。地裁:一部無罪、最高裁:破棄差し戻し
*地裁判決(1959年3月30日)
・「合衆国軍隊の駐留がわが憲法の規定上許すべからざるものであれば」、被告人が軽犯罪法よりも重い刑罰で裁かれるのは、適正手続きを定めた憲法31条に違反する。
・「憲法9条の解釈は」、「単に文言の形式的、観念的把握に止まってはならないばかりでなく」、「合衆国軍隊の駐留は」「わが国の安全と生存を維持するため必要であり、自衛上やむを得ないとする政策論によって左右されてはならないことは当然である。」
・日本に駐留する合衆国軍の軍事行為で、自国と直接関係のない戦争に巻き込まれる危険性があり、それを許容する日本政府の行為は日本国憲法の精神にもとるのではないか。
・合衆国軍隊の駐留は、日本の要請、施設・区域の提供、費用の分担があってはじめて可能。したがって「自衛に使用する目的で合衆国軍隊の駐留を許容していることは」、「憲法第9条第2項前段によって禁止されている陸海空軍その他の戦力の保持に該当するものと言わざるを得ず、結局わが国に駐留する合衆国軍隊は憲法上その存在を許すべからざるものと言わざるを得ない。」
*最高裁判決(1959年12月16日)
・在日駐留米軍は9条が禁止している戦力には該当しない。
・日米安保条約は内閣と国会の高度な政治的判断に基づいており「裁判所の司法審査権の範囲外のもの」で、「終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねられるべきものである」。
・在日米軍は、わが国を含めた極東の安全を目的としているので、憲法の趣旨に適合する。

☆長沼事件
*北海道長沼町に自衛隊のミサイル基地を設置することになり、そのために国有保安林指定が解除された。住民がこの解除は違憲ではないかと訴えた。
地裁:住民の請求を認容、高裁:一審破棄し請求棄却、最高裁:上告棄却・住民敗訴決定
*地裁判決(1973年9月7日)
・森林法を憲法の中で位置づけると「平和的生存権を保護しようとしているものと解するのが正当である」。平和的生存権の侵害は、「いったん事が起きてからではその救済が無意味に帰する」から、原告らには保安林指定の解除処分の取り消しを求める法律上の利益がある。
・裁判所が国家の行為について憲法問題を回避すれば、全公務員に課している憲法擁護の義務を空虚なものに化してしまう。自衛隊が違憲かどうかという問題を司法審査の対象から除外すべき理由はない。
・自衛隊は、編成、規模、能力、装備からすると明らかに軍隊であり、憲法違反である。
*最高裁判決(1982年9月9日)
・保安林の代替物を建設したので、訴えの利益はなくなった。
・平和的生存権は原告適格の基礎にはならない。

☆自衛隊のイラク派兵差し止め訴訟(名古屋高裁判決2008年4月17日)
「現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても」イラク特措法に違反し、「かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる。」
「平和的生存権は、憲法上の法的な権利として認められるべきである。そして、この平和的生存権は、局面に応じて自由権的、社会権的または参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ、裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求しうるという意味における具体的権利性が肯定される場合があるということができる。」

☆朝日訴訟
*朝日さんは結核で生活保護を受けながら入院していた。兄から毎月1500円送金を受けられるようになったところ、日用品費600円が打ち切られ、さらに900円を医療費として支払うよう命ぜられた。これに対して不服申し立てをする。
地裁:請求認容、最高裁:朝日さんの死亡により訴訟終了
*地裁判決(1960年10月19日)
・生活保護法は憲法25条を具体化したものであり、請求権を有している。
・「健康で文化的な最低限度の生活」は法的に確定できる。その具体的内容は固定的なものではなくたえず進展向上しつつある。
・現実の国内における最低所得層を基準にしてはならない。
*最高裁判決(1967年5月24日)
・生活保護を受ける権利は相続の対象にならない。本人が死亡したから終了。
・憲法25条1項は具体的な権利規定ではない。
・生活保護基準は厚生大臣の裁量事項。

☆堀木訴訟
*全盲の堀木さんが児童扶養手当を申請したところ、障害者年金の受給を理由に却下された。
*地裁判決(1972年9月20日) 併給の制限は憲法14条違反。
(障害年金と児童扶養手当の併給は1973年の法改正で認められるようになった。)
*高裁判決(1975年11月10日) 立法府の裁量の問題で、違憲問題ではない。
*最高裁判決(1982年7月7日)
・憲法25条は「プログラム規定」。「国が個々の国民に対して具体的現実的に」25条の規定をを実現する「義務を有することを規定したものではな」い。