5月19日 リブインピース@カフェ
「日本国憲法の影(1)――旧植民地出身者を差別し、権利から排除」報告

 5月19日のリブインピース@カフェでは、憲法問題連続企画の第3回目として、日本国憲法の「影」の部分について取り上げました。特に、その「影」の一つである「国民」という言葉について考えました。

 前半は、映画『在日(歴史篇)』の一部を鑑賞しました。この映画は、1945年の日本敗戦からの歴史の中で、在日朝鮮・韓国人が、差別に苦しみながらも自らの生きる道を切り開いてきた様子を描いたものです。今回、この映画を観ることにしたのは、日本国憲法のGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)案にあった在日外国人の権利を保障する条文が、日本側の抵抗で消されていったという事実が、描かれているからです。
 映画の感想では、「よく知らなかったことを知ることができて、よかった」、「東京の新大久保や大阪のI橋でヘイトスピーチを行う集団がいるが、彼らは、在日がなぜ日本にいて、どういう暮らしをしているのかも知らない。私たちは知ることが大事」、「改めて、申し訳ない気持ちになった」などが出されました。

 後半は、(1)憲法制定過程における、外国人の権利の明記削除、(2)現在の憲法解釈と差別が温存されている実態、(3)外国人排除をより明確にする自民党改憲案、という3つのテーマについて報告を行い、議論しました。
 (1)では、映画でも描かれていた、憲法制定過程における変化について報告されました。GHQが作ったもともとの案では、以下のように、国籍にかかわらず平等の権利を持つことが明確に規定されていました。
第13条 すべての自然人は、法の前に平等である・人種、信条、性別、社会的身分、カーストまたは出身国により、政治的関係、経済的関係または社会的関係において差別がなされることを、授権しまたは容認してはならない。
第16条 外国人は、法の平等な保護を受ける。
 しかし、これに日本側が抵抗し、最終的に、「自然人」を「国民」に代え、「出身国による差別の禁止」も「外国人への法の平等な保護」も削除し、次のような外国人を排除した形での「法の下の平等」としたのです。
第14条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
 (1)ではこの他に、在日朝鮮人など旧植民地出身者が、国籍や選挙権を一方的に奪われる経過も報告されました。
 議論の中では、こうしたことの背景に、日本人が朝鮮人に抱いていた差別意識とともに、日本の民主化や天皇の戦争責任を追及する運動の中で、在日朝鮮人が果たしていた役割の大きさがあり、その力を恐れた日本政府が彼らを排除した、ということが指摘されました。また、日本政府だけでなくGHQの側にも、自らが日本に作ろうとしている秩序の枠を超えるような力を、在日朝鮮人が持つことへの警戒感があり、外国人の人権保障の憲法からの削除に、最終的に同意したのもそのためではないか、との意見がありました。
 「憲法案がこのように修正されることなく、外国人の権利保障が明記されていれば、今起きている色んな問題が起きなかったはず。それがとても残念」との感想もありました。

 (2)では、憲法の人権保障が外国籍の人にも及ぶのかについて、現在主流の憲法解釈では、権利の性質上適用可能な人権規定はすべて及ぶと考えている(「性質論」)ことが、報告されました。この解釈では、多くの人権が外国籍の人にも保障される一方、一部は保障されないことになります。制限される権利は、参政権、公務就任権、社会権、入国の自由など、とされています。
 しかし、日本国憲法では「国民」という言葉が多用されていますが、英文では、そのほとんどが「person」又は「people」であり、国籍を問題にはしていません。したがって、外国人の権利が明記されていなくても、日本国内にいるすべての人が権利を保障されていると解釈されるべきです。外国人の権利に制限を加えているのは極めて不当です。
 権利がどのように制限され、またその制限が変更されてきたか、ということについて、年金・健康保険・生活保護/教育/外国人登録法(指紋押捺制度)/公務員・選挙権、の各分野について報告がされました。在日外国人が14歳になったら犯罪者のように指紋を採られる指紋押捺制度の廃止や、健康保険や年金制度の適用も在日の人たちの裁判闘争や運動、日本人の支援によって勝ち取られてきたことが分かりました。

 現行憲法では、このように権利の制限について改善していくことができます。しかし、自民党の案通りに憲法が改悪されれば、それさえ難しくなります。
 (3)では、自民党改憲案が、選挙権から外国籍の人を排除することを明文化しようとしていることが報告されました。それだけでなく、全体を通して、同じ「国民」という言葉であっても、現行憲法に比べて、「日本国籍を持つ者」と限定して解釈される性格の強い内容になっています。教育も国家のためのものと位置づけられています。
 外国人の権利を、現行憲法よりも大幅に制限する自民党改憲案は、基本的人権の精神に、根本的に反するものです。

 その他、橋下大阪市長の、「日本軍『慰安婦』は必要だった」とする一連の発言についても議論しました。その発言のひどさを改めて確認するとともに、安倍首相の考えも橋下市長と同じだという意見が出されました。

2013年5月23日
リブ・イン・ピース☆9+25