特定秘密保護法の危険
(「何が秘密?それは秘密」特定秘密保護法を廃案に! 緊急集会 岩本勲さん講演録)

 11月10日に行われたリブ・イン・ピース☆9+25主催「何が秘密?それは秘密」特定秘密保護法を廃案に! 緊急集会での岩本勲さん(大阪産業大学名誉教授 政治学)の講演録です。

特定秘密保護法の危険

岩本 勲

はじめに―特定秘密保護法制定の狙い
 安倍内閣は、集団的自衛権の行使をはじめ、米軍の指揮の下、戦争体制準備のため、戦争司令塔=国家安全保障会議(日本版NSC National Security Council)の創設およびそれと表裏一体のものとして本法の制定を急いでいます。この背後には、米国からの法制定の強い要求があることはいうまでもありません。第一安倍内閣は2007年既に、米国から提供される軍事情報について米国と同レベルの秘密保全を義務付けた「秘密軍事情報保護日米協定」(General Security of Military Information Agreement)を締結しており、「特別管理秘密」を扱う公務員の身辺調査も2009年4月から実施されています(「毎日新聞」9.24)。NSC法案が衆院を通過した現在、事態は急を要しています。

(1)NSCと大本営
(1)NSCはしばしば戦前の大本営と比較されることがあるので、簡単にその異同を説明しておきます。
 戦前の軍隊の統帥権は、内閣・議会から独立した天皇直属の大権であり(大日本帝国憲法第11条)、それを直接担当したのは陸軍参謀総長と海軍軍令部総長でした。このため、これらの総長が担当する軍令(軍の指揮命令権)と軍政(予算・人事:陸・海軍大臣担当)とが分離させられました。このような制度は、天皇絶対主義権力を、政党・議会に代表されるブルジョアジーや地主の干渉から守るための制度でした。
 大本営は日清戦争で初めて設置され(1894年)、その後数度にわたって改廃されてきましたが、その構成は天皇の臨席の下に陸・海総長を中心とするものでした。ところが、日中戦争の開始後、総力戦と化した近代的戦争を遂行するためには、政府との連絡を密にすることが不可欠となり、大本営政府連絡会議が設けられ、さらにそれでも不十分で対米戦争開始後、それは最高戦争指導会議(天皇、陸・海総長、陸・海大臣、首相、外相)に改組されました。しかし、戦争指導にあたって、最後まで情報と権力の一元化に成功することができませんでした。

(2)戦後は、安全保障会議が1986年以来、設けられていましたが、それは中期的な軍事政策に関する基本方針策定のための審議機関で、不定期的に開催されていました。しかし、これでは戦争のための統一指令部としての役割を果たしえないことから、今回これを改正し、実際に戦争ができる体制つくりを目指して、首相・外相・防衛大臣・官房長官を中核とする統一指令部を設置し、情報と権限を官邸に集中しようとするものです。これは定期的に開催し、平時においては軍事・外交の基本方針を決定し、戦時においては最高指揮権を発動するための機関です。日本政府は「周辺事態法」(1999年)を手始めとして「武力攻撃事態対処法」(2003年)を制定し、憲法で禁止された交戦権を下位法で解禁し(憲法違反)、さらに今回、その総仕上げとして、実際の戦争を想定した日本版NSCと特定秘密保護法を制定しようとするものです。これまで、国家公務員法や自衛隊法によって、個別に秘密遵守義務が定められていましたが、包括的でしかも重罰を課す特別の秘密保護法が制定されなかったのは、日本国家が表向きは平和憲法による平和主義を掲げてきたからでした。しかし、「積極的平和主義」の名の下に、戦争準備を急ぐ安倍内閣は、もはやそのようなマヌーバーさえ、かなぐり捨てようとしているのです。

(2)特定秘密保護法とは何か?
(1)すべての情報は国民のもの
 国民主権のもとにおいては、全ての情報は国民のものであり、国民が知る権利は当然かつ不文の権利です。日本国憲法には条文上、「国民の知る権利」は明文化されていませんが、「言論・出版のその他一切の表現の自由」(憲法第21条)、「学問の自由」(同23条)の当然の前提として「国民の知る権利」が存在します。この権利なしにはこれらの諸自由は存在しえないからです。
 この権利は国際的にも承認された権利です。「すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見を持つ自由ならびにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む」(「世界人権宣言」第19条、下線は引用者)。
 ところが、日本政府は、盗聴王国アメリカには「信頼にたる国家」として情報の授受を行うが、一方、日本国民は信用できないとして情報は秘密にする――これが、特定秘密保護法の本質に他なりません。
 
(2)広範囲な特定秘密事項、外交密約も自由自在
 特定秘密とは、防衛・外交・特定有害活動(スパイ)の防止・テロリズム防止に関する4事項のうち、「公になっていないもののうち、その漏洩が我が国の安全保障に著しい支障をあたえるもの」(第3条)とされています。例示的内容は、同法別表に掲げられています。
[資料]特定秘密保護法案全文(10月25日閣議決定)

 政府発表では従来の機密対象は暗号解読・無線傍受・防衛装備等を含めて約80分野で40万件 (磯崎陽輔首相補佐官)。しかも、特定秘密情報は絞るという政府言明とは全く裏腹に、特定秘密対象事項は事実上無制限となります。
保護対象の特定秘密は40万件 法案担当の礒崎首相補佐官(東京新聞)

 「朝日新聞」調査(11.2)によれば、外交交渉のうち次の20項目は秘密指定から除外とされています。
 受刑者移送・為替・通信規格・国際郵便・子の親権協定・障碍者の権利・途上国開発・二重課税防止・教育文化・食の安全・労働基準・社会保障・漁獲割り当て・投資保護標準化・再生エネルギー開発・漁獲割り当て・特許・国際民間機航路開設・自然保護・環境汚染。
 逆にいえば、これ以外の外交事項はすべて、いわば無制限に特定秘密事項の対象となる可能性があるということとなります。核兵器持ち込みも米軍基地移転費日本側負担額・内容、等の日米密約もすべてOKという訳です。
 さらに、政府・与党の汚職隠しも自由自在。かつて造船汚職事件(1954年)に際して、犬養健・法務大臣が指揮権を発動して、佐藤栄作・自由党幹事長の逮捕を中止させましたが、特定秘密保護法下では汚職も特定秘密事項にすればすべては終わりです。政府は汚職事件などは秘密事項にしないと答弁していますが、何を秘密にしたかは秘密だから、このような答弁は全くあてになりません。警察官の犯罪行為も各種冤罪事件もみな同じ。原発関連では、事故や放射能汚染の状況、その対処方法、原発の構造や周辺地図、使用済み核燃料やMOX燃料の輸送等、全てが非公開にされる危険が指摘されています。

(3)言論・出版・学問の自由に対する厳重な制限=憲法蹂躙
 秘密取扱者は具体的には、(1)国の行政機関、(2)独立行政法人、(3)都道府県警察、(4)行政機関等から事業委託を受けた民間業者・大学等。一般に医薬品、コンピューターやロボットなどの最先端技術をはじめ一切のものが軍事転用可能であり、「テロ」「大量破壊兵器」につながります。したがって、いかなる研究領域であろうと国家統制が可能となります。研究者・関係業者、教授から助教・院生までが秘密取扱者となり秘密遵守の義務を負うことになります。したがって、学会・雑誌での研究発表は不可能です。言論・出版の自由(憲法第21条)、学問の自由(同第23条)の蹂躙の危険性が大きくなります。
 他方、大学や独立行政法人などで「特定秘密」を口実に軍事研究などが秘密裏に進む危険もあります。米国では、これらの事は最早日常茶飯事でさえあります。

(4)秘密は闇から闇へ
 秘密指定者=行政機関の長(各大臣・警察庁長官など)は無制限に秘密事項を延長することが可能です。特定秘密事項の有効年限は5年、ただし5年ごとに更新可能で、さらに30年後も内閣の承認によって有効期限を延長し、秘密の無期限化もできます(第4条)。「公文書管理法」では30年で廃棄か国立公文書館保管等での保管を定めていますが、特定秘密保護法ではそのようなことはお構いなしです。現に、自衛隊は昨年末時点で234項目の秘密事項を設定し、11年までの5年間で約5万5400件が指定され、うち3万4300件を廃棄、秘密事項指定解除は1件だけです。
 安倍首相は、日本政府の過去の侵略行為をごまかすために、歴史的評価は後世の歴史家に判断を任せると述べていますが、肝心の重要公文書を闇から闇へと葬ったのでは、後世の歴史家も正しい判断ができず、大いに困惑するでしょう。

(5)特定秘密事項の取扱者とその関係者に対する広範な適性評価=身元調査、プライバシーは丸裸、国家による広範な国民監視体制
 評価対象者は特定秘密取扱者(当該行政機関の職員・行政機関との契約に基づいて特定秘密事項を扱う従業者、第12条1項)および評価対象者の関係者(配偶者・事実婚者・父母・子・兄弟姉妹、同居人の氏名、生年月日、国籍(過去に有していた国籍を含む)、住所ほか)で、広範な身元調査が行われます(同条2項)。
 適性評価の調査事項は広範囲にわたり、スパイ行為の有無・犯罪歴・情報漏洩の非違・薬物乱用・精神疾患・飲酒節度・信用状況などとしています。適性評価は評価対象者の同意を得ることとしていますが(同条3項)、同意を拒否すれば事業から外されるだけですから、強制と等しいです。行政機関の長はこれらの評価に際して、知人・公務所・公私の団体(学校・病院・銀行その他)に照会し報告を求めることもできます(同条4項)。

(6)まやかしの報道・出版の自由・基本的人権の保障
 基本的人権の保障・知る権利の保障に資する報道・出版の自由は「十分に配慮」すると書かれているだけです(第21条1,2項)。この自由には、フリーランサーの記者の自由を含まれる旨の特別委員会答弁があります。ただし、ジャーナリズムの自由といえども、「公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によると認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」(同2項)との限定つきです。しかも、いかにしてこの自由を担保・保障するのか、という肝心のことは具体的には明記されていません。したがって当然、マスコミの側の自主規制と委縮は免れえません。
 まず、「著しく不当な方法」という概念は極めて曖昧で、何が「著しく不当」なのかは政府と警察が判断することとなります。たとえば、今回、多くのジャーナリストが東京電力福島第一原発に作業員の身分で潜入し、現場を報道しました。日本弁護士連合会は「記者の身分を偽って施設に潜入するような取材は法令違反や不当な取材として処罰される恐れがある」と指摘しています(「毎日新聞」11.1)。自民党が2002年に国会に提出した人権擁護法案(廃案)では、違法な取材の事例として「つきまとい、待ち伏せ」や「住居、勤務先付近においての見張り」も明示されていました(同紙)。
特定秘密保護法案:ここが問題!!/4 「違法」基準は政府次第 潜入取材も処罰の恐れ

 「公益」の判断基準もあいまいです。外務省秘密電報漏洩事件(西山事件、1971年)においては、東京地裁は秘密電報の取得行為は秘密漏洩の「そそのかし」の構成用件に該当するが、それを罰する法益と電報公表によって得られる「国民的利益」とを比較衡量すれば、「国民的利益」が上回るので、これを無罪としました。ところが、東京高裁・最高裁は政府密約の漏洩を公益とは認めず、愛人を通じて電報のコピーを入試たことはその方法が「情を通じて」あるいは「社会通念上是認することができない態様」であるとして有罪としました。
 公的密約暴露と秘密遵守義務のいずれに正義があるのかという問題を検討する場合、最も極端な形で示しているのが、米情報機関の秘密暴露を行ったスノーデン事件です。米国の法律では、単なる公的秘密の漏洩は最高10年の懲役ですが、外国に軍事情報を漏らした場合は死刑か終身刑かしかなく有期刑はありません。だから同氏の暴露行為は文字通り命をかけたものでした。この場合、社会的正義を代表しているのが、スノーデン氏か、それとも米国の防諜法か、答えは自ずと明らかです。

(7)米国の秘密保護の要請に同調し重罰
 現行の国家公務員法の秘密漏洩罪が最高1年の懲役(国家公務員法第109条)、防衛秘密漏洩罪が最高5年(自衛隊法第122条)です。ところが特定秘密保護法は最高10年(第22条)の厳罰です。一方、日米安保条約に基づく「刑事特別法」では、不当な方法で合衆国の軍隊の機密を探知・蒐集したもの、漏洩したものは10年以下の懲役(第6条)、日米相互防衛援助協定(MDA)に伴う「秘密保護法」では、特別秘密を不当な方法で探知・蒐集・漏洩罪は10年以下の懲役(同3条)。したがって、特定秘密保護法がこれらに歩調を合わせたものであることは明白です。

(8)反原発・平和運動・情報公開要求・オンブズマン運動など市民運動に対する威嚇・弾圧
 単に特定秘密事項をそれとは知らずに入手しただけでは直接的には本法違反とはなりません(韓国では軍事機密入手だけで有罪)。しかし特定秘密保護法は、特定秘密事項の入手方法に着目し、特定秘密事項取扱者以外の第三者にも厳罰を科します。欺き・暴行・脅迫・窃盗・施設侵入・通信傍受・その他特定秘密を保有する者の管理を害する行為によって特定秘密事項を取得した者は10年以下の懲役です(第23条)。では、「その他特定秘密を保有する者の管理を害する行為」とは何か?定義が極めて不明です。
 特定秘密事項保有者に対して、又は第三者に対して、不法に特定秘密事項を入手することを、共謀・教唆・扇動した者は、それによって特定秘密事項を入手しなくても、独立罪として有罪(第24条)となります。

例1:米軍機の訓練飛行ルートが特定秘密事項に指定された場合でも、沖縄や「本土」の市民の監視網によってそれを明らかにすることは、直接には本法違反ではありません。しかし、基地を目隠している幕をめくって写真撮影したところ、警官がすっ飛んできて「特定秘密を保有する者の管理を害する行為」として、現行犯逮捕ということにもなりかねません。

例2.(続き)現行犯逮捕を免れた場合。だが、警察は必ず違法な方法によってルートを探知したとの嫌疑をかけ、それによって捜査・逮捕が可能となります。その際、被疑者の長期拘留と自白の強要・家宅捜索・パソコンや書類の押収・人的観察網の調査などあらゆる弾圧が可能です。仮に起訴されなくとも、市民運動は大被害を蒙ります。
 例えば、立川反戦ビラ配布事件(2004年)や葛飾政党ビラ配布事件(2004年)がこのことをよく示しています。立川事件の場合は、立川自衛隊監視テント村(1976年以来)の3人が、自衛隊官舎の郵便受にイラク反戦ビラを投函したところ、住居侵入罪で逮捕・起訴されました。東京地裁八王子支部は、この行為は住居侵入罪の構成要件には該当するが、憲法21条の表現の自由との法益比較衡量の上、無罪としました。ところが東京高裁・最高裁は罰金10〜20万円の罰金刑としました。問題はそれだけに止まりません。これによって、逮捕直前までの長期にわたる尾行・内偵・ビデオ撮影、逮捕後の自白強要・事務所・自宅など6か所の家宅捜索・書類やパソコンの押収などが行われ、被疑者は完全黙秘をとおして75日間、接見禁止で拘留されました。同様の事件は、葛飾事件で、こちらは共産党の議会活動報告ビラを集合住宅のポストに配布して住居侵入罪で有罪となった事例です。東京地裁は無罪判決でしたが、東京高裁・最高裁は有罪で罰金5万円となりました。この際も、被疑者には自白強要・23日の長期拘留・家宅捜索などが行われました。

 (治安維持法体制の再来)両事件はいずれも、刑事警察ではなく警視庁公安部主導で捜査が行われ、担当検事も同一人物の公安担当検事S・Sでした。警備・公安警察=特高、警備公安検事=思想検事、という体制は、まさに戦前の治安維持法時代の「特高・思想検事」体制の復活そのものです(参照。荻野富士夫『思想警察』『特高警察』岩波新書)。
 微罪逮捕で市民運動を弾圧するのが警備・公安警察の常套手段であることが、改めて確証されました。ましてや、特定秘密保護法は微罪どころか、重罪です。警察・検察は手ぐすねひいて待ち受けていることを覚悟しなければなりません。

例3:「MOX燃料輸送ルートを明らかにせよ」というビラは教唆・扇動、自治体職員に詰め寄れば脅迫、または住居不法侵入、反原発メンバーが秘密を探る相談をすれば共謀、仮に輸送ルートを入手しなくてもこれらはすべて独立罪だから有罪となります。これによって、大規模な冤罪事件が発生することは目に見えています。
 戦前の大規模な冤罪事件が横浜事件(1942年)でした。総合雑誌『改造』が掲載論文を理由に発禁になったのをきっかけとして、論文著者とその友人や関係者たち約60人が、ありもしない共産党再建謀議の疑いで治安維持法違反で逮捕され、そのうち4人が拷問で殺されました。証拠とされたものは、著者の出版記念宴会に参加した人々の記念写真1枚に過ぎません。戦後、GHQによる戦犯裁判を恐れた政府関係者は、関係書類をすべて焼却しました。遺族は、再三、再審を求めましたが、最高裁は治安維持法廃絶を理由に免訴を言い渡し、結局、真相を闇から闇へと葬りました。
 最近の大規模な冤罪事件は志布志事件(2003年)です。これは鹿児島県議会選挙で鹿児島県警はこれもまた、ありもしない選挙違反事件をでっち上げ、孫の字を書いた紙の踏みつけなどを強要したのをはじめ、1年以上の長期拘留・自白強要など違法な取り調べの結果、13名が起訴されました。しかし、第一審で無罪となり、検察も控訴できず無罪が確定しました。

例4:秘密取扱者以外の第三者が特定秘密事項の不法入手で起訴された場合。特定秘密保護法違反裁判では、裁判官には一定の範囲内で、行政機関の長から特定秘密の内容が知らされますが、それを公表することはできません。したがって、被告は、入手したとされる情報がいかなる意味で特定秘密事項に該当するのか否かについて審問・求釈明をすることができず(憲法第37条違反)、果たして被告の行為が特定秘密保護法のいかなる構成要件に該当するのかも明確とすることができません。これは、刑法における大原則である罪刑法定主義(憲法第31条違反)を根本から覆すものです。裁判官は、被告の行為は特定秘密保護法に違反するというだけで、具体的にどのような秘密に該当するのか明らかにすることなく、ひたすら有罪判決を宣告する機関に堕してしまうだけです。繰り返し言えば、「何が秘密であるかは秘密」だからです。したがって、一旦、この法律で起訴されたならば、十中八、九は有罪です。戦前の治安維持法違反事件もほとんどの場合、裁判官は有罪を宣告するだけの道具にすぎませんでした。仮に民主党が提案している「インカメラ」方式(裁判官が不開示部分を閲覧して違法性の有無を判断する方式)を導入したとしても、憲法第31条、37条違反の事態には何ら変わりはなく、被告には何の利益ももたらさないのです。
 現在は、秘密を守ろうとするため、裁判自体を回避する事例もあります。過去15年間、軍事・外交関係で公務員の秘密漏洩事件は5件ありました。そのうち、自衛隊の探知能力に関する最も重要な秘密は、読売新聞がまず報道した中国潜水艦火災事故(2005年)に関するものでした。漏洩者は情報本部1等空佐で懲戒免職となりましたが、刑法上は起訴猶予となりました。裁判過程で秘密内容が明らかになることを防止するために他なりません。しかし、特定秘密保護法ならば、秘密内容を公表しなくても、特定秘密保護法違反だけで起訴・有罪とすることができるのです。

(9)おとり捜査・スパイ潜入
 第22条、23条の未遂者及び共同謀議参加者のうち自首した者は減刑又は免除(第25条)となります。これは明らかにおとり捜査や市民団体へのスパイ潜入政策を目指したものです。
 米国FBIでは、おとり捜査は常態ですが、日本では違法となっています。しかし、例外的には麻薬取締・銃砲刀剣取り締まりのため、最高裁は2004年、おとり捜査とその証拠能力も認めました。つまり、犯意誘発型(犯意がなかった者を誘って犯罪に至らしめた場合)と機会提供型(犯意がある者に犯行の機会を与え犯罪に至らしめた場合)とに二分し、後者の場合は適法としました。特定秘密保護法の場合は、未遂者・自首者を秘密裏に起訴しなければ、それで済ましてしまうことも可能です。

(10)無制限に広がる国民にたいする諜報活動・監視活動
 自民党インテリジェンス・秘密保全プロジェクトチーム(PT)座長の町村信孝元官房長官は、同派の会合で10月31日、諜報機関の設置の必要性を述べ、特定秘密保護法成立の後、これについてPTで検討に入ることを言明しました。既に、諜報機関としては内閣情報調査室、自衛隊情報保全隊、警視庁公安部、公安調査庁(破壊活動防止法)などが活動しています。これらの諸機関がすでに、国民に対する諜報・監視活動が広汎に行っていることは公然の秘密でさえあります。

例1.公安警察によるイスラム教徒監視事件:警視庁公安部外事3課がテロ対策として、在日イスラム教徒とその周辺者約1000人の詳細な身元を、さらに警視庁協力者でさえテロリスト候補者のごとく扱っている調査書が2010年、ネット上で暴露されました。しかし、警視庁はこれを自らの資料としては認めていないし、被害者に謝罪もしていません。

例2.陸上自衛隊情報保全隊の情報収集:同隊が2003年、イラク反戦のライブを監視した事件がありました。仙台地裁は個人情報収集違反でこの男性を含む5人に合計30万円の損害賠償を命じました。二審の仙台高等裁判所で今年5月、当時の情報保全隊長の証言を求めたところ、守秘義務を理由に証言を拒否しました。しかし、彼は「一般論」とした上で、情報保全隊の任務がスーパーでの反戦平和の歌活動、プロレタリア作家の展示会、春闘での街頭宣伝、等の情報収集を挙げました。

例3.公安警察の電話盗聴事件:共産党国際部長の自宅電話が神奈川県警察本部警備部公安第一課所属の複数の警官によって1985〜86年に盗聴されていた事件が、1986年に明るみに出ました。警察は捜査を拒否しましたが、告発を受けた東京地検が捜査した結果、公安警察による各種非合法捜査の統括部署としてコードネーム「サクラ」が存在することも明らかになりました。しかし、関係警察官は不起訴・起訴猶予となりました。国際部長はこれを不服として、警察官の職権乱用につき、付審判(公務員の職権乱用事件について、不起訴・起訴猶予になった場合、裁判所の決定によって、弁護士が検察官に代わって起訴を行う制度。ただし、捜査の指揮は検察官が行う)の請求を行いました。ところが、最高裁判所は職権乱用を認めず不審判請求を棄却しました。なお、盗聴グループの一員の警察官は事情聴取中に急死。真相はまたしても闇から闇へ。

例4.元警察官幹部の証言:「スパイやテロの対策を受け持つ警備・公安警察は、具体的な事件性が見える前の段階で「そこまでやるか」というほどの情報収集をする。罰則もつく秘密保護法はそれにお墨付きを与えかねません。テロ対策を理由に、個人情報の収集が無制限に広がる恐れがあります、例えば、原発はテロに狙われる恐れがある、として「特定秘密」扱いになる可能性が高い。すると、原発関連の情報公開請求をするような市民やオンブズマンが情報収集の対象になる可能性もありますよ・・・(私は北海道警察の裏金作りを告発しましたが、特定秘密保護法が施行されれば、会計書も特定秘密事項になって私も摘発されるでしょう。)・・・特定秘密の範囲は警察のトップでいくらでも恣意的にきめられますから」(原田宏二・元北海道釧路方面部長、「朝日新聞」10.19)。なお、県警・道警の裏金作りの実例は、2004年、北海道、福岡、静岡、愛知、島根、熊本、2008〜2011年、千葉、岩手、滋賀、広島,山形、石川(http://wikipedia.org/w/index.php?title?=裏金&oldid=49317741)。

終わりに―今からでも遅くはない、世論の多数は反対
 「特定秘密保護法案」反対59%・賛成29%・(廃案+慎重審議)86%(「毎日新聞」11.12)、反対42%・賛成30%・今国会成立反対64%(「朝日新聞」11.12)。世論の多数は法案反対です。全国津々浦々から反対の声を上げ、廃案に追い込むことが喫緊の課題となっています。

(本稿は「特定秘密保護法を廃案に!緊急集会」(リブ・イン・ピース☆9+25主催、11.10)の講演要旨に討論内容を補足して仕上げたものです。2013.11.12.筆者)

2013年11月15日
リブインピース☆9+25