衆議院本会議は4月8日、「能動的サイバー防御法案」を自民・公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主などの賛成で可決した。共産党とれいわ新選組などは反対した。私たちは与党のみならず大半の野党が結託してこの危険な法案を衆院通過させたことを糾弾し、最後まで危険性を訴えて廃案にすることを要求する。 この法案は「能動的」とあるように、防御ではなく攻撃的な法律だ。サイバー攻撃から防衛するのではなく、先制攻撃で「未然」に撃破することを目的としている。その対象、仮想敵は中国だ。メディアでは報じないが、この法律は中国に対する戦争で先制攻撃をかけるためのものだ。それは国会で問題になった憲法の通信の秘密や国民の諸権利だけでなく、戦争放棄を定めた9条にも真っ向から反するものだ。 インターネット上で広範な市民監視体制を作る 先制でサイバー攻撃を仕掛けるためには標的を定める必要がある。この法律はそのために過去に例がないほど広範な市民監視体制をインターネット上に作るものだ。政府は米欧にはすでに同種の仕組みがあるという。米国には国家安全保障局NSAの下にCIAなど情報機関が関与してインターネット上の通信情報を監視するPRISM、外国との通信を監視するX−Keyscoreという巨大なシステムがある。前者はグーグル、ヤフー、フェースブック、ユーチューブ等のウェブサービス企業から利用者のメール、文書、写真、利用記録などを本人の了承なしに、令状もなしに提供させ、それを分析するシステムだ。 「能動的サイバー防御法案」も同じ仕組みを作るもので、平時から市民の通信やメールのやり取りなど通信情報をインターネット業者などから本人の同意なしに吸い上げ、それを収集・監視・分析できるようにする、また重要インフラ業者にサイバー攻撃に関する報告義務を負わせるものだ。サイバー攻撃を行う犯罪者をあぶり出すと言うが、実際には市民のあらゆる活動を政府や警察、自衛隊が監視できる。 メールの中身には立ち入らないというが、日常的に誰と誰の間に情報のやり取りがあるか監視し把握できるようにするのは「プライバシー権侵害」そのものだ。インターネット情報を広範にカバーできる仕組みがあれば、やろうと思えば容易に「怪しいもの」を警察や自衛隊が日常的に調べることに道を開ける。この法律はサイバー攻撃の危険を煽り立てることで、市民の通信情報監視に踏み出す法律であり、法案修正で「通信の秘密を不当に制限しない」などと書き加えても、国民監視の本質は何ら変わらない。非難をかわすための欺瞞に過ぎない。 サイバー先制攻撃を可能にする法律 さらに重大な問題は、この法律が自衛隊や警察に「サイバー攻撃防止」のために攻撃側のサーバーなどに侵入し、先制攻撃で無力化することを認めていることだ。明らかに対中戦争を念頭において、先制攻撃に道を開くことがこの法律の本質だ。「能動的サイバー防御」が提起されたのは、「敵地攻撃能力獲得」=対中国攻撃用長距離ミサイル大量取得を打ち出した安保3文書(2022年)である。この時「敵地攻撃能力」で「攻撃の兆候があれば」先制攻撃できると先制攻撃解禁を打ち出し、「専守防衛」を完全に亡きものにした。政府・与党が「台湾有事」と銘打った対中戦争の机上演習で真っ先に取り上げたのが「能動的サイバー防御」だった。彼らは他国からの「サイバー攻撃」は武力行使とみなせるとし、それを防止するには平時から市民の通信情報を監視・分析し、サイバー攻撃をかける可能性のある外国のサーバーなどに先制攻撃をかけることを可能にすべきだと考えた。「能動的」とは攻撃を受けていないのに先制攻撃をかけることだ。法律そのものが軍事的攻撃の一環としてサイバー攻撃を解禁するために作られたのだ。他国にあるサーバーやコンピュータネットワークに自衛隊や警察が攻撃をかければ、武力行使と見なされる。だからこの法律は第2の敵地攻撃能力獲得であり、先制攻撃から開戦に道を開く危険極まりない法律だ。まだ攻撃してもいない相手について「攻撃が切迫している」と認定するのは政府の恣意的で一方的な判断でしかない。しかし、政府の判断を阻止して先制攻撃から戦争開始に持ち込むのを断念させることは極めて難しい。だからこそそれに道を開く法律を絶対に許してはならない。 廃案を要求して闘おう 「能動的サイバー防御法案」の危険性はまだ広く知られていない。何よりも先制攻撃に道を開く攻撃的で危険極まりない性格についてほとんどの野党が問題にしようとしない、「中国の脅威論」を無批判に頭から受け入れ、対中国戦争準備には必要だと考えている状況が事態を深刻にしている。参議院での審議と並行して、市民の間でこの法律の攻撃的本質と危険性を広く訴え、世論にしていくことで法案の廃案を勝ち取ろう。 2025年4月8日 |
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