人民生活を犠牲にして対中戦争を準備するな
軍事費GDP比2%=5・8兆円増を阻止しよう

軍事費GDP比2%、9条改憲、「台湾有事」戦争準備に反対して闘おう
 岸田首相はバイデン大統領との首脳会談で、「防衛力を抜本的に強化し、防衛費の相当な増額を確保する」「反撃能力(敵基地攻撃能力)を含めてあらゆる選択肢を排除しない」ことを約束しました。日本の軍事費を5年間でGDP比2%にすることを事実上約束したのです。軍事費の大幅増も反撃能力も国家の軍事政策の根幹にかかわる問題です。それを国会の議論にも図らず、閣議の議論も経ずに、国民の頭を超えて直接バイデン大統領に誓約するなど国民無視も甚だしいことです。国民不在、政府の私物化という他ありません。
 バイデン大統領は、記者会見で「台湾有事」に際して米が軍事関与すると発言し、台湾を巡る対中対決で大きく踏み出しました。米政府は「従来の立場からの変更はない」と釈明しましたが、バイデンの「失言」、インド太平洋軍元司令官の「6年以内に台湾危機が起こる」との証言等、極めて危険な対中挑発が公然と行われています。いわば6年以内に中国と戦争になる可能性があり、それに米軍は参加するつもりで備えているというのです。日本政府は「骨太方針2022」で5年以内の軍事力の抜本強化とNATOが目指す2%を目標とすることを決めました。軍事費GDP比2%化と9条改憲は、「台湾危機」で日本が米軍と連動して軍事的に挑発的・侵略的な役割を担うためのきわめて具体的な準備なのです。それはまた、日本を人民生活をことごとく犠牲にして、軍事を最優先する戦争国家、軍事国家にするものです。絶対に阻止しなければなりません。

軍事費に対する制約を一挙に取り払う岸田政権
 軍事費の「GDP比1%枠」は憲法9条を根拠に76年に三木内閣が閣議決定したものです。86年に中曽根内閣が閣議決定を撤廃しましたが、その後も実質的に制約として残り、たとえ1%を突破してもごくわずかの範囲にとどまる状態が続いてきました。その状態が崩れ始めたのはここ数年のことです。つまり、第2次安倍内閣が軍事費をひたすら増加し、さらに毎年巨額の補正予算を軍事費につぎ込んでから1%を超え始めたのです。22年度軍事費(当初予算)は5兆4005憶円、前年の補正予算7738億円を加えた6兆1743億円で、GDP比で1・09%に達しています。それでも1%枠は世論の力と並んで軍事費の野放図の増大を抑える事実上の制約として大きな意味を持ってきました。安倍元首相などは文字通り軍事費を急増させたかったのですが、1%が事実上の重しになって大きく突破することはできなかったのです。
 岸田首相の2%を目指すという決断はこの制約を白紙に戻し、一切の制約を取り払らうものです。逆に5年で軍事費を約2倍に増やすよう大きくアクセルを踏み込みました。この大幅急増は過去に例がありません。軍事費GDP比2%にするには現在5兆4千億円(当初予算)の軍事費を11・2兆円まで増やさなければならないのです。(政府統計によれば2022年度名目GDPは564.6兆円です)。そのためには当初予算だけで考えれば5・8兆円以上の増額が必要で、毎年1兆2千億円の増額が必要になります。

軍事費GDP比2%は日本の防衛体制を根本的に変える
 軍事費GDP比2%は自衛隊の装備体系、組織体制を変え、自衛隊の性格そのものを根本的に変える大きなインパクトを与えます。文字通り攻撃的で侵略的な軍隊へと自衛隊を変貌させるのです。そうしなければ、軍事費として11兆円を越える予算を毎年「消化」することなどできません。
 現在の日本の軍事費は、人件・糧食費(22当初予算で2・2兆円)、一般物件費(活動経費1兆円)、歳出化経費(装備購入費2・2兆円)の3つから構成されています。この中で人件・糧食費や一般物件費は5年間で2倍になど到底増やせません。
 自衛隊の陸海空をあわせた総定員は24万7154人ですが、実際には志願者が少なく2万人の欠員状態です。人件・糧食費を倍にするには自衛隊員を20万人以上増員することが必要です。しかし、政府が中国との緊張をあおる中では実戦部隊である自衛隊への志願者は増えないでしょう。とにかく自衛隊への志願者を増やすために、若年層の失業を軍隊が吸収する米国の経済的徴兵制が日本でも現実になる危険性はあります。失業していたり、非正規の不安定で劣悪な仕事に従事する若者を軍隊へ(自衛隊へ)という動きは日本でも出てくるでしょうが、5年で2倍にすることはさすがにできません。
 次に活動経費(訓練費、燃料費等)である一般物件費はどうでしょうか。現在自衛隊は陸海空で米軍や豪州、英仏などと共同演習や訓練を増加させています。その頻度や密度は数年前と比べ物にならないレベルになっています。とはいえ、5年でそれらにかかる費用が2倍になるほど活動を増やすことは、もちろん不可能です。
 結局、軍事費増大の中心になるのは装備を購入する歳出化経費になるのです。政府が狙っている対中軍事力、反撃能力(攻撃能力)の増強の中心も歳出化経費です。単純化のために人件・糧食費、一般物件費が増えないと仮定すれば、歳出化経費(装備購入費)は現在の2・2兆円から毎年1兆2千億円ずつ増えて、5年後には単年度で8.2兆円を超えることになります。もちろん実際にはほかの経費も増えますから、歳出化経費の額は3倍前後になるでしょうが、とんでもない額であることがわかります。装備に関しては、現在も対中軍拡、対中戦争のための攻撃兵器取得、新型兵器の導入、基地増設、研究開発費に集中的に多額の予算が投入されています。最新鋭のF35戦闘機は現在の中期防で45機、最終的に147機調達予定です。大型無人偵察機「グローバルホーク」3機で700億円、敵基地攻撃能力の獲得と結びついた長距離巡航ミサイル等JASSM、P1哨戒機、ヘリ空母「いずも」の空母改装、南西諸島の軍事要塞化の一環として馬毛島滑走路整備等々がすでに含まれています。しかし、現在の中期防後に支払いの残る102機のF35の費用は約1兆2000億円です。それが1年の増加分だけで全機買えてしまう規模なのです。例えば、米海軍の最新鋭の原子力空母ジェラルド・フォード(10・1万トン)の建造費は1兆4000億円、艦載機を含むと2兆円余り、バージニア級の原子力潜水艦は1隻3000億円です。5年後には日本の軍事費のうち歳出化経費は6〜7兆になるでしょうが、毎年原子力空母1隻と原子力潜水艦5隻を発注して(費用計3兆5000億円)、ようやく歳出化経費の半分程度を消化できるにとどまるのです。どれだけ規模が大きいかわかります。
 政府が6月7日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針22)」は、新たな国家安全保障戦略等の検討を加速し、国家安全保障の最終的な担保となる防衛力を5年以内に抜本的に強化するとした上で、以下が必要としました。@スタンド・オフ防衛能力や無人化装備、宇宙・サイバー・電磁波領域を含む領域横断能力、機動展開能力、指揮統制・情報関連機能の強化。民生技術の取り込み、AI、無人機、量子等の先端技術の研究開発。A防衛力の持続性・強靱性の確保、必要な弾薬の確保、装備品の維持整備。B国内の防衛生産・技術基盤を維持・強化。C質の高い自衛隊員の十分な確保や処遇改善等、在日米軍再編及び基地対策の推進等。中国に対する攻撃力(スタンド・オフ)、無人化やサイバーなど攻撃的で最新鋭の兵器・技術開発のオンパレードになるでしょう。長距離攻撃用の巡航ミサイル追加購入、対艦、対空ミサイル増加、対艦ミサイルの射程の大幅延伸、さらに本格的な空母建造、イージス艦の追加建造、潜水艦増加等々が考えられます。そしてその多くは米国製の高額兵器で米の軍需独占に貢ぐことになります。
 22年度予算で日米同盟強化のために防衛省が負担する支出は1兆840億円で、すでに軍事費の6分の1に達する大盤振る舞いになっています。軍事費の2倍化の下で、米軍に対する支出も天井知らずで増え続けることでしょう。

軍事費GDP比2%は、文教予算や少子化対策予算をまるまる吹き飛ばす
 しかし、この莫大な軍事費増の費用をどこから持ってくるのでしょうか。5・8兆円という額は、文教・科学関係予算5・4兆円はじめ、少子化対策費4・4兆円、生活保護給付費4・8兆円等をまるまる削除しても足りないほどの金額です。これだけの巨費をどう捻出するのか岸田政権は明らかにしていません。目途も決まっていないのに大増額だけ決めたのです。こんなふざけた話はありません。
 メディアでは軍事費増について「軍事に使う金を他に回せばこれだけ市民の負担が減らせる」などの形で批判的に取り上げています。しかし、残念ながら事態は全く逆なのです。新たな財源などありません。5・8兆円の軍事費増加をねん出するために、現にある教育や医療、社会福祉、社会保障など人民関連の部門から容赦なく奪い、人民の負担を重くする、生活を苦しくする、それしかないのです。安倍元首相は「国債を発行して」などといってまた人々をだまそうとしています。しかし、すでに歳入の3分の1が国債発行で賄われ、4分の1が国債の償還・利払いで消えているのです。借金返済のためにそれを上回る額の新しい借金がなされている現状です。インフラ整備のような一時的な支出なら国債を発行し、返済期間を延ばすことはありえます。しかし軍事費は5年後に11兆円を超え、その後増えこそすれ減りません。国債発行でまかなうなど論外なのです。結局方法は二つしかありません。人民関連部門から容赦なく奪い取るか、増税=消費税アップで賄うかです。消費税1%で税収は2兆円と言われます。消費税で軍事費増を賄うなら消費税を13%にまであげなければなりません。
 日本は76年にGDP比1%にして以降軍事費の負担は他国と比べると相対的に軽かったはずです。その下で人々の生活は豊かになったのでしょうか? 全く逆でした。この20年欧米でもアジアでも労働者・人民の所得は曲がりなりにも上昇しています。日本だけは労働者・人民の所得が減少し貧しくなったのです。巨大企業だけが労働者・人民の生き血を吸って巨大な利潤を得て肥え太りました。「企業が世界一搾取しやすい(活動しやすい)国」(安倍元首相)にしてきたのです。この上、軍事費を2倍にしてどうするのでしょうか。軍事と戦争は浪費するだけで新たな生産も需要も投資も生み出しません。人民の労働の成果で軍需産業を肥え太らせ、その結果は緊張の激化と戦争です。絶対に許してはなりません。今の段階で徹底的に批判し、市民の声をあげて運動の力で阻止することが極めて重要になります。

2022年6月15日
リブ・イン・ピース☆9+25