ハーシュの暴露――ノルドストリーム爆破の犯人は米国
プロパガンダではなく、真相究明こそが必要

 2022年9月26日、デンマーク・ボーンホルム島沖合の水面下78メートルの海底で、ロシアからドイツに天然ガスを輸送する海底のパイプライン「ノルドストリーム」の4本のうち3本が爆破されました。爆弾によって直径1.2m、厚さ6cmの鋼鉄でできていて、周囲を11cmのコンクリートで覆われてできたパイプラインは50mにわたって吹き飛ばされたといいます(BBC)。地震学者によるとTNT火薬100キロ規模の爆発の振動を探知したとあります。きわめて規模の大きい爆発で破壊されたのです。
 「ノルドストリーム」のパイプラインは2つあり、「ノルドストリーム2」はすでに完成していましたが未稼働で、「ノルドストリーム1」は爆破前から修理のため停止したままでした。破壊直後から、欧米メディアさらに日本のメディアも追随して「ノルドストリーム」の所有者であるロシアとプーチンが第一容疑者だと示唆しました。しかし、ロシア側に爆破する動機も必要もありません。すでに天然ガスは止まっていたのであり、それ以上破壊してもロシアの資産が損害を受けるだけ、天然ガス輸送が不可能になって莫大な損害を受けるだけです。従ってプーチン犯人説は荒唐無稽というほかありません。さらに、非常に奇妙なことに、爆破に対する調査はまるで犯人を隠すのが目的であるかのように一切の情報が隠蔽されています。デンマーク、スウェーデン、ドイツは調査から当事者で被害者であるロシアを排除し、爆破現場には爆薬、起爆装置等の残留物があるはずなのに何一つ公開していません。利害から言うと、ロシアとドイツは爆破で被害を受けますが、米国は爆破によってドイツをロシアへの燃料依存から切り離し、米国に依存させ米国産燃料・ガスを買わせることになり、2重の利益をえます。だれが考えても米国が一番怪しいのです。
 もう一つ重要なことは、この爆破は軍か国家が関与しなければ到底実行できない大規模な攻撃だということです。水面下78メートルに埋設されたパイプラインを真っ暗な中で見つけ出し、100`単位の爆薬を何か所もセットし、時限装置か信号で起爆させなければなりません。3月22日にニューヨークタイムスが書いたような全長15メートル程度のヨットに親ウクライナの活動家数人が乗り込んだ程度では到底実施できません。宮古島での墜落した自衛隊ヘリの捜索(深度106メートル)が大深度での活動の困難性を如実に示しています。宮古島では6000トンの船(潜水艦救難艦ちはや)に積んだ特殊な減圧装置を使って特殊な訓練を受けた自衛隊潜水員が作業に従事していましたが極度に困難な仕事でした。減圧タンクなしで潜る時には海底からの浮上に数時間かけなければなりません。到底何カ所も爆薬を設置して回ることなどできません。この規模の作戦を実施する装備と人員を持つのは海軍か特殊部隊だけです。

シーモア・ハーシュ、米国の破壊工作関与を暴露
 2023年2月8日に、ベトナム戦争のソンミ村の虐待報道でピューリッツァー国際報道賞を受賞したジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏がブログで「ノルドストリーム」パイプラインの爆破は「米国の工作」によるものと主張しました。米海軍潜水士が「ノルドストリーム 1と2」のガスパイプラインに爆発物を仕掛け、その3カ月後にノルウェー海軍がソノブイで信号を発し爆弾を作動させた、この作戦の実施は9カ月にわたり極秘密裏に進められ、米国大統領バイデンが決定したといいます。
 ハーシュ氏がブログに公表した関係者からの聞き取りに基づく報告「アメリカがノルドストリームパイプラインをどのように破壊したのか」(原題:”How America Took Out The Nord Stream Pipeline”)の要点を以下に記載します。(番号は筆者)。
※出典 https://seymourhersh.substack.com/p/how-america-took-out-the-nord-stream

@爆発物は、2022年6月に行われたNATO演習「バルトップス22」中に偽装され、米海軍潜水士がパイプラインに4つの爆薬を仕掛けました。3ヶ月後の9月にノルウェー海軍の対潜哨戒機が投下したソノ・ブイから送られた信号によるリモート操作で、内3つを爆破しました。
A作戦は、バイデンが決定したという証拠を残さぬため9ヶ月にわたり極秘密裏に行われました。関係者はホワイトハウス、CIA、米軍です。
B計画は2021年12月(つまりウクライナ侵攻開始の2ヶ月前に)、サリヴァン補佐官の下に作られた特別タスク・フォースの直接関与で開始されました。
C数回の会議の中で、海軍は新潜水艦による任務遂行を提案。空軍は遠隔で発射できる爆弾投下を提案。CIAは何が行われようと、それは秘密でなければならないと主張しました。
DCIAを率い作戦を指揮したのは、オバマ政権下で国務副長官を務めたウィリアム・バーンズ(元駐露大使)でした。バーンズは、パナマシティにある海軍の深海ダイバーの高度スキル訓練所の一つのグループ(大深度潜水に必要な減圧タンクなしで、酸素と窒素とヘリウムの混合気体だけで水面下90メートルに潜水可能)を承認しました。グループはパイプラインに沿って爆発を引き起こす秘密作戦計画を作成し、2022年初めCIAグループがサリヴァンに「パイプラインを爆破する方法」ありと報告しました。
E爆破計画は、米軍支援を受けた高度機密化諜報作戦へと変更され、議会報告の義務が無くなりました。残るのは、バルト海でのロシアの監視下で作戦を遂行することだけでした。
Fノルウェーとデンマークに秘密裏の協力を取り付け、2022年6月のNATO軍事演習時にデンマーク沖バルト海、260フィート(78メートル)の海底に走るパイプラインにC4爆薬を装着しました。
Gその直前、バイデン大統領は自己の関与が疑われることを恐れ、演習から爆破まで間を開けることを指示。CIAを含むグループは、軍用機投下のソノ・ブイが発する信号の数時間後、爆発物を起爆する装置を開発し装着したのです。9月26日、ノルウェー海軍P8哨戒機がソノ・ブイを投下し、信号が海中に広がり数時間後に爆発が起きました。
Hノルドストリーム爆破後、ポーランドのシコルスキー外相(当時)は、「ありがとう、アメリカ」とツイート。パイプラインの破壊写真を添えた。ブリンケン国務長官はノルドストリーム破壊について「プーチンからエネルギーを兵器化する手段を取り除き、ロシアのエネルギーに対する依存を根こそぎにする絶好の機会」と主張しました(2022年9月、記者会見)。ブリンケンはまた、ロシアのガスを高価なアメリカの燃料で代位することで欧州を援助すると提案。最近、ヌーランド国務次官も「ノルドストリーム2が今や海底の金属の塊になったことをとても喜ばしく思っている」と言い放っています(2023年1月、上院公聴会)。

メディアはハーシュの暴露を無視、中傷した
 米欧日のマスコミ・メディアの多くは、ハーシュ氏の暴露を、こぞって無視あるいは中傷しました。ロイターは「ホワイトハウスは、ノルドストリームの爆発に関するブログ投稿は『完全に誤りである』と言っている」との誹謗コメントを流すなど、記事は「真っ赤な嘘であり、完全な捏造」であるとしました。彼らはハーシュ氏の主張を調べることさえせずに無視したのです。そのことでハーシュ氏が暴いた真実=米国が犯人で、バイデンが爆破を命じたことを隠そうとしました。
 しかし、無視するだけでは不安だったのか、次に彼らがばらまいたのが「親ウクライナグループが実行者」という宣伝でした。ハーシュ氏の暴露、真実から目をそらすために、犯人をでっち上げることにしたのです。2023年3月7日、米紙「ニューヨーク・タイムズ」は、「ノルドストリーム」の爆破テロは何らかの親ウクライナ派組織が実行した可能性があるとする記事を公表しました。ドイツ週刊紙「Die Zeit」(※)も同じ日、ドイツの捜査当局がテロに関与した疑いのある船はウクライナ人が所有する会社からレンタルされたものだったと特定したと報じました。ワシントンポストには「諜報当局はノルドストリーム爆撃の背後にウクライナのパルチザンを疑い、キーウの同盟国をガタガタさせている」という見出を載せました。ハーシュ氏の指摘にはまったく触れませんでした。
https://www.zeit.de/politik/ausland/2023-03/nordstream-2-ukraine-anschlag

 3月22日、ハーシュ氏は状況を知る外交筋の話を引用したSNSの投稿で「親ウクライナ政府」グループが「ノルドストリーム」パイプラインを爆破したという報道は、いわゆるフェークニュースであり、これは米国の情報部門が、命令を受けて、真実を隠蔽するためにでっち上げ、流したものだと述べています。はじめに指摘したように、この海底パイプラインの爆破には大規模で組織的な組織が必要であり、指摘されるような「親ウクライナグループ」などには到底できそうもありません。

プロパガンダではなく、真相の究明と処罰を
 「ノルドストリーム」破壊作戦は、ロシア軍事侵攻の3年前から、米政府が狙っていたものです。ロシアをどうしたら弱らせることができるのか。ペンタゴンと米政府とつながりがあるランド研究所は、2019年に米陸軍から委託をされて検討し、ベルリンとモスクワ間のエネルギー協力がロシアの経済的収入と欧州における影響力の源泉であると指摘し、「ノルドストリーム2」の妨害を挙げました。実際、米政府はノルドストリーム2の完成を妨害し続けました。そして2022年2月7日に、バイデンはドイツ・ショルツ首相とのワシントンでの会談の際に「ロシアがウクライナに侵攻した場合、『ノルドストリーム2』は存在しない」と述べました。また、バイデンはヨーロッパへのガス供給が途絶えた場合は、米国がその分を補填することができるだろうと主張しました。そしてロシア侵攻前の2021年12月には破壊作戦を開始します。そしてハーシュ氏が暴露した作戦が続くのです。
 「ノルドストリーム」爆破は明らかなテロ行為です。スウェーデン、デンマーク、ドイツによって行われている調査はロシアを除外し、客観的な調査の要件を満たしていません。今年3月27日、ロシアは国連安保理に、独立した国際調査を要求し、ハーシュ氏が引用し公表している事実を再確認することを命ずる国連安保理決議草案を提出しました。しかし、安保理は中国、ブラジルがロシアと共に賛成、残る12か国は棄権で、この提案を否決しました。米国に「非友好国」と見なされ経済制裁を恐れる各国は棄権を余儀なくされました。ロシアと中国に関する米国と西側・日本の報道の多くは悪意に満ちたプロパガンダになっています。ロシアを非難し敵意を煽ることだけが目的なのです。しかし、現場には犯人の証拠はたくさん残留していたはずです。各国が秘密にしている調査を公表させれば、誰がやったのかは明らかになるでしょう。事実に基づく事件の解明と公表、犯罪者の特定と処罰を要求します。

2023年4月25日
リブ・イン・ピース☆9+25