米・コロンビアが挑発するラテンアメリカにおける戦争の脅威

 10月30日に米国とコロンビアの間で驚くべき内容の新たな基地協定が締結された。米国はコロンビアにすでに2つの米軍基地をもっているが、それに加えて2つの空軍基地、2つの海軍基地、3つの陸軍基地の7つのコロンビア軍基地に米国の軍事要員が派遣され(まずは800人と発表されているが人数制約はない)、それらの基地を米軍が必要なときにいつでも利用できる、というものである。さらにそれだけではなく、コロンビア国中のすべての国際空港も必要なときには米軍が完全に利用することができるのである。
 これは、ベネズエラに対する直接の軍事的脅威を一挙に高めるものであり、また、ラテンアメリカ全域に対する軍事的恫喝であることは明白である。ベネズエラのチャベス大統領は、コロンビアはもはや主権国家ではなく米国の植民地だと非難した。
 米国とコロンビアは、表向きはあくまでコロンビア国内の麻薬取り締まりと反政府ゲリラへの対処のためだと説明しているが、米軍の財務文書に明記されている内容が、その表向きの説明とは全く異なるものであることが、暴露され明らかにされている。それによれば、国防総省は、中南米全域での緊急事態における一連の取り組みを追求し、コロンビアの基地増強に多額の予算をあてているのである。
 南米最大の米軍基地であったエクアドルのマンタ基地を、反基地闘争の高揚の中で閉鎖せざるをえなくなった米国は、その代替基地を主にコロンビアに求めてきた。だがその際に、単に代替基地を確保するだけではなく、いっそうの増強を画策している。9月にマンタ基地からの撤退を完了したが、それに先立ち8月にコロンビアとの間で、今回正式調印された内容の合意が成立していた。さらにさかのぼれば、米国は、ラテンアメリカ海域をパトロールする第4艦隊(第二次大戦後1950年に解体された)の再創設を今年4月に発表し、7月から就役させている。また、9月にはパナマに新たな軍事基地を建設することが発表された。その上に今回のコロンビアとの軍事協定が加えられたのである。
オバマの「対テロ戦争」(1) 中南米の重大な脅威。米軍がコロンビアの軍事基地使用拡大。(リブ・イン・ピース☆9+25ブログ)

 ここ10年にわたって、ラテンアメリカでは、ベネズエラを先頭に社会変革と米帝国主義の支配から脱却しようとする運動が進展してきた。それに対して巻き返そうとする米国の策動が顕著になってきている。ホンジュラスの軍事クーデターも、その巻き返しの一環としてある。現在ホンジュラスは、社会変革を求めるラテンアメリカ人民の闘いと、それを阻止しようとする米国およびオリガーキー支配層との、せめぎ合いの焦点となっている。米国は、米軍のプレゼンスの拡大・増強を追求しながら、各国で現地のオリガーキーと軍部を支援して、反動勢力を復権させる画策をいっそう強めようとしているのである。

 ベネズエラを中心にラテンアメリカの状況を詳しくフォローし報じている「ベネズエラ・アナリシス」や「グリーン・レフト」などのサイトで、いくつもの論説を通じて最近の米国の危険な策動が暴露され論じられている。
「ベネズエラ、コロンビアと、ラテンアメリカにおける戦争の脅威」(Green Left 11月7日 Kiraz Janicke)
「コロンビアは軍事協定で米国に『主権を明け渡した』とチャベスは述べた」(Venezuelanalysis.com 11月4日 James Suggett)
「公式の米空軍文書が米・コロンビア軍事協定の隠された意図を明らかにしている」(Venezuelanalysis.com 11月5日 Eva Golinger)
「ベネズエラはコロンビアと米国の攻撃に対して自らを防衛するであろうとチャベスは述べた」(Venezuelanalysis.com 11月11日 James Suggett)

 以下に、最もよくまとまっていると思われる「ベネズエラ、コロンビアと、ラテンアメリカにおける戦争の脅威」(11月7日 Green Left)の内容を要約して紹介する。

2009年11月23日
リブ・イン・ピース☆9+25


[内容要約]
ベネズエラ、コロンビアと、ラテンアメリカにおける戦争の脅威
Green Left 11月7日 Kiraz Janicke
http://www.greenleft.org.au/2009/817/42020

 米州における帝国主義による戦争の可能性が10月30日に一歩近づいた。コロンビアと米国が10年の協定を最終的に締結したのである。この協定によって米国は、このラテンアメリカの国で巨大な領域にその軍事的プレゼンスを拡大することが可能となる。
 米国は、ラテンアメリカ全域に対する支配を再獲得しようと追求している。米国の支配力は、南米大陸全体に広がる反ネオリベラリズムの反逆の中で、ここ10年にわたって低下してきた。その先頭にベネズエラのボリーバル革命がある。
 米国は、その「裏庭」に対する支配・統制を再構築するために、いっそう強力な介入手段に訴えるようになってきた。それは、最近のホンジュラスにおける軍事クーデターや、ボリビア、ベネズエラ、エクアドル、パラグアイなどの進歩的政権に対する不安定化工作や、この地域への大規模な軍事力増強に反映されている。
 米国はまた、パナマに新たな軍事基地を建設し、ラテンアメリカ海域をパトロールする第4艦隊を再就役させた。

 ベネズエラは、この10年にわたって貧困な人々の生活を改善し、草の根レベルでの民主主義と政治参加を促進してきた。2005年には、チャベス大統領は、ボリーバル革命が社会主義を目的とすると宣言した。その貧者の側に立った諸政策は、ベネズエラ・オリガーキーと米国の強力な経済的利害との闘いをもたらしてきた。
 米国と固い同盟関係にあるウリベ大統領のコロンビア政府とベネズエラとの間の緊張は、今回の軍事協定によって非常に高まった。チャベスは、協定の最終的な締結について、コロンビアは米国に主権を手渡したと避難した。「今日コロンビアはもはや主権国家ではない ... それは一種の植民地である」と。

 この協定で、米軍はコロンビアの2つの空軍基地、2つの海軍基地、3つの陸軍基地、および国中すべての国際空港への完全なアクセスが可能となる。これが、コロンビアにすでに存在する2つの米軍基地に加わるのである。この協定は、また、米国人全スタッフに、コロンビア領土でおこなわれたあらゆる人権侵害や犯罪に対する刑事訴追を免れる外交官免責特権を与えている。
 米国当局者は、コロンビアで活動するのは800人だけであると発表しているが、しかし協定は展開される軍事要員の数的制限を何もおいてはいない。

 米国は、コロンビアが他の南米諸国への軍事介入の出撃拠点として使用されることを、繰り返し否定した。しかし、「ベネズエラ・アナリシス・コム」の11月4日の論説で James Suggett が述べているように、米軍の財務文書では全く異なることが語られている。
 「ペンタゴンの2010年予算によれば、国防総省は『中南米での緊急事態における作戦、兵站、訓練をめざした一連の取り組み』を追求している。」ペンタゴン予算は、「最もカギとなるコロンビアのパランケロ空軍基地の『拡張・発展』のために4,600万ドルをあてている。」とSuggett は述べている。
 「米空軍軍事建設計画」の2010年度予算によれば、パランケロ基地は「全方位作戦のためのすばらしい機会を提供する ...安全と安定が、不断の脅威のもとにある。その脅威は、麻薬で資金を得たテロリストの騒乱や、反米政権や(これに注目!)、この地方特有の貧困や頻発する自然災害によって、引き起こされている。」

 元コロンビア大統領エルネスト・サンペルは、最近のインタビューでこの協定を批判して、「我々は今、戦争直前の状態にある」と述べた。武力紛争がひとつの可能性としてある。しかし、米国の現在の戦術は、ベネズエラの革命が崩壊することを期待しながら、それを不安定化することである。すでにイラク、アフガニスタン、パキスタンで泥沼にはまり込んでいる状況で、戦争は米国にとっても危険性が高いだろう。
 ラテンアメリカの貧者、虐げられた人々、排斥されてきた人々は、すでに独立の美味を経験してきた。彼らは必ずや反撃するであろう。

(翻訳 by H.Y.)