<パレスチナ> 反占領・平和レポート(新) No.3
<Palestine> Anti-Occupation Pro-Peace Report (new version) No.3
パレスチナ国家承認・国連加盟申請
米国の意向に逆らって大きな歴史的一歩を踏み出す
――「オスロ合意」の時代の終焉――
The Application of Approval and Affiliation of the State of Palestine in the U.N.,
Taking forward a Historical Step against the Will of the U.S.
― The End of the Years of "Oslo Agreement" ―

 パレスチナ自治政府は米国の再三再四にわたる警告・脅し・説得を振り切り、イスラエルからの脅迫にも屈せず、9月23日、ついに国連に国家承認と正式加盟を申請した。パレスチナ自治政府は、1993年に米国が主導した「オスロ合意」にもとづき、正式な国家ができるまでの暫定的なものとして発足した。自治政府は、イスラエルによる事実上の占領が続く中で、米国とイスラエルに資金的にも軍事的にも命綱を握られ、独立した主権国家となることを阻止されてきた。その下で、米国の中東支配の一環に組み込まれるのか、独立を求めるパレスチナ人民の真の代表者としての役割を果たすのか、絶えずその間で揺れ動きながら、次第に米国への依存を深めてきた。その自治政府が米国の意向に逆らう決断をしたことは、歴史が明らかに新しい時代に入ったことを象徴している。それは、天をも突くようなアラブ民衆の革命的蜂起を背景として、占領からの解放を目指して闘うパレスチナ人民の総意を体現したものである。アッバス議長による国連演説は、総会の場でも万雷の拍手と喝采を浴び、パレスチナ現地でもアラブ各国でも熱狂的に受けとめられた。それはパレスチナ自治政府が、これまで米国の庇護の下で妥協に妥協を重ねてきた自らの過去と決別し、存在そのものを賭して米国の要求を拒否したことに対する、限りない賞賛と共感に他ならない。

「仲介者」米国の威信失墜
 国連演説でアッバス議長は、イスラエルの「この入植政策は、パレスチナ自治政府という機構そのものを掘り崩し、その存在を終わらせさえするおそれがある」と指摘し、イスラエルが強行する入植政策を絶対に認めるつもりはないことを明確に表明した。さらに、その後のインタビューでも、「私はパレスチナ指導部に戻るが、パレスチナ指導部はイスラエルが占領当局としての責任を再度引き受け直す時がきたかどうかに関する決定をおこなうであろう。……私たちはパレスチナ自治政府を単なる名前だけにしておくつもりはない。」と明確に語った。イスラエル政府は、パレスチナ自治政府の収入である税を代理徴収しているのだが、その税の送金停止と米国からの援助停止をちらつかせて恫喝していた。だが、パレスチナ側はそれにも屈することはなかった。

 これまでパレスチナ問題はたびたび国連に持ち込まれたが、正式の国家承認と国連加盟が申請されたのは今回が初めてである。これまでは、双方が納得する形での和平を米国が仲介し、和平が成立した後に国連に加盟するということになっていた。だが、「オスロ合意」での5年という暫定期間が過ぎた1999年の和平交渉が決裂し、「パレスチナ自治」はイスラエルによる占領支配の欺瞞的な形に過ぎないことがはっきりしてきた。「インティファーダ」(民衆蜂起)と呼ばれた1980年代後半からの、独立を求めるパレスチナ人民の闘いが「オスロ合意」を生み出したのだが、その欺瞞性が露呈してくる中で、2000年秋から新たな「インティファーダU」(または「第2次インティファーダ」)がはじまった。しかしそれは、2002年春のイスラエル軍による西岸大侵攻によって無慈悲に武力弾圧され、血の海に沈められた。その後抵抗運動は断続的に続くが、ことごとくイスラエル軍の圧倒的な武力によって弾圧されてきた。そのもとでも抵抗を諦めないパレスチナ人民は、イスラエルをして、ガザ地区の入植地をいっさい引き挙げざるをえなくさせた。だが、その代償がガザ地区の完全封鎖であり、2008年末〜09年初のガザ大侵攻であった。このときは1400人超のパレスチナ人が殺害され、数多くの家屋や公共施設、経済基盤などが破壊され尽くした。

 パレスチナ国家が国連で正式に承認されれば、何がどう変わるのか。その政治的に最も重要なポイントは、パレスチナ人民の国家としての諸権利、特に軍事紛争をめぐる国際法上の諸権利を、イスラエルも米国もこれまでのように力ずくで押さえ込んだり無視したりすることができなくなることにある。これまでは、占領に対するパレスチナ人民の抵抗は、少しでも武力的な形をとれば「テロ」とされ、国家としてのイスラエルがその「テロ」から自国民を守るという口実で、パレスチナ人をいくら殺戮しても、どれほどのひどい破壊をおこなっても、それは「自衛権の発動」として罪に問われずにきた。世界最大の強国である米国の庇護の下で、中東支配の要としてのイスラエルは、いかなる横暴も許容され「不可罰性」を享受してきたのである。しかし、正式なパレスチナ国家が「国際社会」全体に認められ国連の加盟国となれば、対等な国家として「自衛権」を主張することもできるし、国際司法裁判所で争うこともできるようになる。すべてが「国際社会」の監視の下でおこなわれるようになり、これまでの状況に終止符を打つ重大な一歩となる。

 米国の中東支配力の低下は、日増しに明瞭になりつつある。米国は、1970年代からキッシンジャー外交を中心に、イスラエルを軍事大国に仕立てて中東支配の先兵とし、王政諸国と良好な関係を保ち、地域大国のエジプトとトルコをイスラエルの同盟国として獲得して、盤石の体制を築き数十年にわたって存続させてきた。その下で、米国とEU諸国による中東支配を掘り崩すおそれのあるパレスチナ問題を、自らの手の内でコントロールする体制を構築してきた。そして、パレスチナ解放機構(PLO)をコントロール下におくことに成功した1993年のオスロ合意以来、パレスチナ暫定自治政府という欺瞞的な形で矛盾を押さえ込んできた。
 だが、アラブ諸国全域に波及した「アラブの春」の巨大な波は、米国のコントロールを遙かに超えて進んでいる。エジプトとトルコがイスラエルとの同盟関係・友好関係を破棄しかねないところまで緊張を激化させていることに対して、米国は有効な手を打つことができず、決定的な破綻に至らないように努力するのが精一杯である。極右政権のイスラエルには、米国が望むような穏健策をとらせることができず、国連演説のすぐ後でイスラエル政府が新たに1100戸のユダヤ人住宅を建設する入植計画を承認するという、「国際社会」への挑戦的姿勢をとったことに対しても、全く無力であった。パレスチナ自治政府に対するコントロールも、今回の国連加盟申請をめぐる交渉・せめぎ合いの中で決定的に破綻した。「国際社会」とアラブ諸国に、中東問題を解決することのできる唯一の大国と見なされてきた米国が、その威信を劇的に失墜させた。

イスラエル国内の大きな変化
 イスラエルでは、7月下旬にはじまり断続的に続けられている大衆的な反政府抗議行動は、8月6日(土)にひとつのピークを迎えた。テルアビブを中心として30万人超の抗議行動がおこなわれ、イスラエルの歴史を変える出来事だと報じられた。その後、約1ヶ月、軍事的挑発で緊張を高めて国内の矛盾・危機を乗り切るという、これまで繰り返し繰り返しおこなわれてきたことがまた繰り返され、対政府抗議行動は約1ヶ月低迷した。だが、若者たちを中心とする今回の運動は、政府・軍部のそのような策動をついに乗り越え、9月3日(土)の抗議行動は、イスラエル全土で45万人超という建国以来例を見ない規模に達した。
 そこでは、明らかに「アラブの春」が意識され、反動政権を民衆の圧倒的な数の力で打ち倒したアラブ人民に対する尊敬の念が示されている。それは、エジプトのタハリール広場をまねた闘い方や「タハリールはカイロだけではない」というスローガンなどに、はっきりと現れている。

 もちろん、イスラエル国内での社会的公正を求める若者たちを中心とした新たな運動は、一直線に進んでいるわけではない。世界中の多くのところでも生じているが、従来からの政治諸党派を嫌い、無党派運動としての性格を強く持っている。また、入植地への多大な予算を批判するスローガンを掲げはしたが、公然と占領に反対するところまでは進んでいない。また、膨大な軍事費に対する批判も乏しい。だが、多くの若者たちが試行錯誤の中で、自分たちの進むべき道を模索しながら進んでいる。自分たちのメインスローガンを「社会的公正」に集約させたこの運動は、一切の差別と社会的排除を許さないという観点をしっかり堅持し、国内のパレスチナ人との共闘を追求している。その中から次第に、内外のパレスチナ人民との全面的な共闘と反占領闘争へと前進する部分が現れてきている。

パレスチナ人とイスラエル人の歴史的画期をなす大衆的な共闘
 9月3日のイスラエル史上未曾有の抗議行動の直後、パレスチナとイスラエルの闘う人民同士が広範に共闘することを宣言する歴史的な動きがあった。グリーンライン(1967年第三次中東戦争前の国境)の両側のパレスチナとイスラエル双方から、いくつもの政党、社会運動団体、若者や女性の諸グループが結集し、占領と人種差別に終止符を打つこと、国家的諸権利を達成しようとするパレスチナ人民の闘争を支持すること、国家的・社会的抑圧に反対することなどを確認し、手を取り合い共闘するという声明を共同で発したのである(後掲翻訳資料参照)。
 それは、パレスチナ人民がイスラエルによる占領の下で自由と尊厳を持って生きる権利を奪われていることを糾弾し、イスラエル内の社会正義を求める大衆的抗議行動を支持し、パレスチナ人民とイスラエル人民との結合した闘いの必要性を強調している。それはまた、中東における諸国人民の覚醒と闘いを歓迎し、植民地主義と覇権からの解放、イスラエルによる占領と軍事攻撃の終結、自決権を獲得しようとするパレスチナ人の正当な闘いへの支持、などを表明している。
 そして特に、この9月の国連でパレスチナが正式加盟を求めることへの支持が強調され、イスラエル市民の社会的経済的困窮の主要な原因として占領と巨額の軍事予算が糾弾され、イスラエル国内でのパレスチナ人とイスラエル人の共闘が推奨されているだけでなく、グリーンラインの双方のパレスチナ人とイスラエル人の大衆的で結合した闘争の必要性が強調されている。

 国連におけるパレスチナ国家の承認と加盟は、米国の時間稼ぎによって決着が引き延ばされている。だが今回の事態がどのような形で決着しようとも、中東地域と全世界で生じはじめた歴史的な変化は、ますます加速しながら進んでいくにちがいない。

2011年10月10日
リブ・イン・ピース☆9+25 (H.Y.)


【翻訳資料】

(グリーンラインの両側から約20の政党および社会運動団体が、現在イスラエルを揺るがしている社会的抗議を支持し、それをイスラエルの占領と植民政策に反対する闘争と結合する必要性を支持して、歴史的宣言を発した。「alternativenews.org」より)
http://www.alternativenews.org/english/index.php/topics/news/3795-historic-declaration-by-palestinians-israelis-in-support-of-israeli-social-protest-anti-colonial-struggle-

パレスチナ人とイスラエル人による歴史的宣言
イスラエルの社会的抗議と反植民地闘争を支持して
Historic Declaration by Palestinians, Israelis in Support of Israeli Social Protest, Anti-Colonial Struggle

2011.9.05(月) 署名団体一同

占領と人種差別に終止符を打つことに賛同し、国家的諸権利を達成しようとするパレスチナ人民の闘争を支持し、国家的・社会的抑圧に反対する

 中東における、人々を勇気づけるような事態の発展、社会的抗議の波、自由を求め尊厳を持って生きる権利を求める諸国人民の闘い、その覚醒、これらの事態とは対照的にパレスチナ人民は、自由と解放を求めるその持続的・継続的な闘争にもかかわらず、依然としてイスラエルの占領のくびきの下にある。

 アラブ世界で吹き荒れた抗議運動と変革の風は、世界中で自由を求める人々の間に興奮を巻き起こし、多くの人々を鼓舞し、大衆的闘争のモデルとして採用された。それは、イスラエル内のユダヤ人とパレスチナ人の双方のさまざまなグループに深い衝撃をもたらし、社会正義を求めるイスラエル内の大衆的抗議運動の高揚に重大な貢献をなした。

 この地域で公正・公平な平和を達成したい、この地域の諸国人民にとって真に本質的な平和、あらゆる人にとっての正義と進歩を求める闘争の推進に資することのできる平和、そのような平和を達成したいという熱望に衝き動かされて、私たち――パレスチナとイスラエルのグリーンラインの両側からの社会的・政治的諸勢力、女性団体や若者の代表――は、結合した闘いの必要性を強調する。それは次のような目標を持ったものである。この地域の諸国人民を、植民地主義と覇権から、特にシオニズムのそれから解放すること、占領とイスラエルの軍事攻撃を終わらせること、「国際社会」の諸決定に即して自決権を獲得しようとするパレスチナ人民の正当な闘いを支持すること。

 私たちは、この地域のすべての諸国人民が、独裁と暴虐な専制支配から解放され、あらゆる形態での民族的抑圧・社会経済的抑圧から解放されることを期す。したがって、この文書に署名した私たちは、次のことを強調する。

1.私たちは9月の国連におけるパレスチナのイニシアティブを支持する。国連は国際社会において平和の基礎をすえる責任を持つ機関である。今回のパレスチナのイニシアティブは、その国連において完全なメンバーとしてのパレスチナの加盟を要求し、東エルサレムを首都とする1967年6月4日の国境線でのパレスチナ国家承認を要求するものであり、またパレスチナ人民の土地の占領に終止符を打つ努力を強化するものである。それはまた、占領に反対するパレスチナ人民の権利と国連決議194に即したパレスチナ難民の帰還権の保護を伴うものである。この脈絡で、私たちは、パレスチナ解放機構(PLO)がパレスチナ人民の唯一正当な代表であることを強調する。その正当性は、故郷に在住するパレスチナ人とパレスチナ難民とから由来し、またアラブ連盟と国連から受けた承認から由来する。

 今回の国連でのイニシアティブは、ひとつの正当なステップである。国連は、国際的なレベルで平和と正義の確立を実現するというその責任を現実に果たさなければならない。これは、パレスチナ人民の諸権利を強化するひとつのステップであって、イスラエルに対して何ら脅威となるものではない。イスラエル政府は、このステップを戦争の宣言として、あるいはイスラエル国家の存在の正当性を害するものとして、イスラエル人民に示そうと多大な努力を払っているのだが。

2.私たちは、イスラエル市民の社会的・経済的困窮の主要な理由のひとつが、資本主義経済政策に加えて、占領の継続と過度の安全保障予算であると理解している。それは、イスラエル政府が、一方では入植地の他方では国境の安全保障のために必要なものとして正当化しようとしているものである。私たちはそれゆえ、占領の終結と公平で公正な平和の確立が平和と福祉のある生活にとって本質的で不可欠なものだと確信する。

 私たちは、イスラエルでの社会的抗議にパレスチナ人住民が参加し合流することを歓迎する。これは、パレスチナ人の苦境とイスラエルに起因する不正義をイスラエル社会内のさまざまなグループの前に示す重要な機会となる。それによって、イスラエルの諸グループが、イスラエルにおけるパレスチナ人を排斥する政策や今なお続いている差別に反対する闘いにおいて、その責任を自覚し、土地の略奪に終止符を打ち、完全な平等を達成し、1967年にイスラエルが占領したパレスチナ人の土地の占領を終わらせることに資するだろう。

 私たちは、占領を継続している政府によるおなじみの企てに再度警告を発し警戒する。それは、国内の危機と抗議の波による圧力を、外的脅威を煽る恐怖の政治によって他へそらそうとするものである。それは、国連へのパレスチナのアピールを「危険なもの」として描き出すことによってもおこなわれ、ガザのパレスチナ人の虐殺におけるひどいエスカレーションという形でここ数日私たちが目撃してきたような軍事行動によってもおこなわれる。

3.私たちは、占領下に生きるパレスチナ人民の権利を承認する。自らの土地から占領者を追い出すために、また自己決定権のために、国際法の基準に基づいたあらゆる正当な抵抗形態を利用する権利を承認する。この脈絡で、私たちは、パレスチナ人とイスラエル人の大衆的な結合した闘争の重要性を強調する。大衆的で結合した闘争(A popular joint struggle)は、占領、入植地、人種差別、植民地主義に反対する闘争において、またイスラエル内の排斥、無力化、貧困化、人種隔離の政策に反対する闘争において、中心的な導きの原則のひとつである。

2011年9月

署名した諸政党、社会的諸組織、若者の男女パレスチナ人およびイスラエル人活動家グループ(アルファベット順)

パレスチナ民主主義青年協会(パレスチナ)
進歩的学生協会(パレスチナ)
パレスチナ解放民主戦線(パレスチナ)
平和・平等民主戦線(イスラエル)
民主教員組合(パレスチナ)
パレスチナ専門職民主組合(パレスチナ)
イスラエル民主女性運動(イスラエル)
イスラエル共産党(イスラエル)
イスラエル政府により捕らえられたアラブ・パレスチナ殉教者全国帰還運動(パレスチナ)
パレスチナ人民党(パレスチナ)
イスラエル製品ボイコット大衆運動(パレスチナ)
進歩的労働者組合(パレスチナ)
社会的政治的変革のためのアラブ・ユダヤ運動(イスラエル)
オールターナティブ情報センター(パレスチナ/イスラエル)
パレスチナ農民組合連合(パレスチナ)
正義のためのワンワールド連合(パレスチナ)
パレスチナ働く女性連合(パレスチナ)
労働者統一ブロック(パレスチナ)

(以上)