シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.10) 中国の「ゼロコロナ」政策に学ぶべき(下)
-「社区」「居民委員会」にみる「中国型民主主義」-

 中国の防疫対策の中心は何といっても1000万人を超える住民全体に渡る数回のPCR検査実施です。なぜあのように大量の検査実施が可能なのでしょうか?検査人員の確保も含め巨大な検査能力があることはもちろんです。しかしそれだけではありません。日本で、万単位の検査を行おうとすれば、保健所の職員の方が必死で電話をかけまくってようやくコーディネートできる状態です。しかし、中国ではその何百倍の住民の方に全く何の混乱もなくスピーディーにPCR検査が実施されます。そのカギを握っているのが、「社区」であり、「居民委員会」の活動なのです。その実際の活動について以下で少し紹介します。

「社区」とは 「居民委員会」の活動とは
 中国における社区とは、都市における住民が行う自治活動の最も基層的な行政区分です。日本の住所の様に示せば、○○市○○区○○街道○○社区となります。(ちなみに日本だと○○市○○区○○町○○丁目)一つの社区で平均して3000~5000人の住民が居住しています。この社区での自治活動を実質的に担うのが居民委員会で、主任を長とする6~9名で構成される専従スタッフがおり、このスタッフは住民の直接選挙で選ばれます。
 この居民委員会が主導する活動は広範囲で多岐に渡り、どことも比較することができません。まず、居民委員会は住民の「よろず相談所」といわれ、あらゆる相談が持ち込まれます。例えば「隣の住民の物音がうるさい」「空き地に花や野菜を植えたい」等の日本でよくある相談だけでなく、医療、健康、食生活、子供の予防接種、就学、就職のあっせん、職業訓練、介護、失業保険や生活保護の申請、文化サークル活動、治安、地区の清掃・美観活動等々住民サービスに関係するあらゆる分野に渡ります。その分野は100をはるかに超えます。居民委員会はこれらの相談・要望を熱心に聞き取り、的確に対応し、住民にもれなくサービスを提供するための中心的役割を担っています。
 例えば、河北省の省都石家荘市の全住民のPCR検査では、居民委員会が社区住民のPCR検査の会場と時間を決め、各個人に通知します。もしどうしてもいけない場合は、新たな検査会場と時間を手配し直します。そのうえで、検査会場まで行けない人に対しては、送り迎えも行います。また、家からどうしても出られない人のため検体採取する検査員をその人の家まで連れてくることも、居民委員会で行います。そしてこれらの活動を居民委員会の専従スタッフ任せにするのではなく、社区住民の多くのボランティアが総出で専従スタッフをサポートするのです。
 このように社区居民委員会を中心とした住民の自主的ボランティア活動が、積極的に日々行われているので、急に全住民対象のPCR検査実施となってもすぐさま対応できるのです。
「中国の『ゼロコロナ』政策に学ぶべき(中)」で取り上げた『日記』の舞台となった武漢の都市封鎖の場合では、以下のような活動を担いました。社区住民全員の毎日3回の検温結果のチェックと把握、発熱がある人への問診とPCR検査の段取り、もし陽性となり症状が重い場合は病院の手配、もし無症状の場合は隔離療養施設への手配、家族等濃厚接触者の割り出しとPCR検査の段取り、陽性者の住居等の消毒、陰性の場合の自宅待機の監視及び健康チェックと買い物・ゴミ出し等日常生活の補助、社区に出入りする人の制限、など。こうした日本の保健所を上回る業務を居民委員会が一手に引き受け、24時間体制で行い、新型コロナウイルスの抑え込みに成功したのです。
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下からの創意を政策決定に直接生かす「中国型民主主義」
 この社区での住民の自治活動は、「4つの自我」を基本としています。それは「自我教育、自我管理、自我服務、自我監督」で、自分たちで意見を出し合い討議し、自分たちで住民サービスの優先度を決め、できるだけ自分たちの力で住民サービスを提供し、その活動を自分たちで監督する、ということ。実際社区では、居民委員会主催で住民の意見を出し合う場が定期的に設けられ、その時にどのような住民サービスを優先すべきかが討議・決定されます。
 各居民委員会は少なくとも年1回以上は市政府と住民から監査を受けます。市政府からは自治活動が停滞していないかのチェックを、住民からは市から提供された資金等が不正に使われていないかのチェックです。
 こうした活動は、日本などとは異なる「中国型民主主義」と言えます。
「つながり」の形成と「政治」の役割 -コミュニティ建設に見る「社区居民委員会」の取り組み(李暁東 愛知大学)

社区でのボランティア活動の中心を担う共産党員
 社区居民委員会と社区の共産党地区委員会とはどのような関係にあるのでしょうか。あくまで社区の自治活動全般を主導するのは、住民の直接選挙で選ばれた居民委員会の専従スタッフです。一方共産党の地区委員会の活動の第1義は、社区住民に対し、中国共産党の政策・方針・思想等を宣伝し、理解してもらい、積極的に賛同してもらうことです。すなわち社区居民委員会と共産党とは直接の関係はありません。
 しかし、共産党地区委員会は、社区に居住する共産党員に対し、居民委員会が提起しているボランティア活動に積極的に参加するよう要請しています。また党員の多くもその要請に積極的に応えています。特に中心を担っているのが退職党員です。この党員の積極的活動によって、居民委員会の専従スタッフに結局共産党員が選ばれる場合がほとんどとなっています。
このような党員の積極的・自発的各種のボランティア活動を日常的に間近に見ることで、毎年約1900万人にも上る共産党への入党希望者がありますが、厳格な入党審査を行っているため、実際の入党者は例えば昨年では234万人、希望者の8人に1人しか入党できていません。
変革中の中国都市コミュニティと住民組織 -「社区党建」と「居民委員会」の再編を中心にして(賈強 文教大学)

14億の人口を持つ国で封じ込めに成功した事実とその秘密
 日本では、中国のコロナ押さえ込みについて「独裁国家だからできた」「強制動員された」「人権抑圧」などと言われています。また「中国共産党は怖い」「共産党員は優遇されている」というイメージもあります。しかしさまざまな偏見や先入観をまず置いて、14億の人口を持つ国で新型コロナ感染を押さえ込んだという事実に素直に向き合い、その重要な意義を正面から受け入れる必要があると思います。
 その上で実際の中国の封じ込めの現場に目を向ければ、「独裁国家」「強制動員」などとは違った姿です。いやむしろ「独裁」や「強制」で14億の人民を統制することなど不可能です。中国が封じ込めに成功した秘密の一つは、日常的な住民へのきめ細かいサーヒスと住民の自発的参加、そこでの共産党員の献身的な役割があり、その中核にあるのが「社区」と「居民委員会」なのです。
 私たちは偏見を捨て、中国がどのようにして新型コロナ感染拡大を封じ込めたのかを真摯に学ぶ必要があると考えます。

2021年1月31日
リブ・イン・ピース☆9+25

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